今回は「しならせたら仕事は終わり」というお話をさせていただきます。
ゴルフはクラブを振らなければ飛ばないと思って、一生懸命に力で振ることばかり考えていませんか。
実はそれでは逆にクラブを能力の限界まで振ることはできません。どういうことか?
◆能力の限界までのパワーを出す仕組み
筋肉が伸ばされながら収縮しようとすることを「伸張性収縮」と言います。
この「伸張性収縮」の状態が一番パワーを発揮できる筋肉の使い方です。
下半身の動きで上半身をしならせる動きで、その筋肉が伸ばされている最中に収縮するようにすれば良いです。
そして、その収縮することを体に備わった自然な防衛反応に任せることで、想像を絶するほど強烈に収縮させることができます。
その防衛反応とは、筋肉が伸ばされると脊髄反射で勝手に縮もうとする「伸張反射」です。
運動神経伝達速度 15〜40m/sに対して伸張反射伝達速度 70〜120m/sですから、最低でも2倍ぐらい「伸張反射」は高速です。
それもそのはず、「伸張反射」は筋肉が伸ばされたときに切れないようにしようとする防衛反応だからです。
熱いものに手を触れてしまうと、思わず手を引っ込めます。
これも脊髄反射です。
やはり防衛反応は脳からの信号より高速に働くことで、私たちの体を守ってくれています。
◆しなりを使った体の使い方
このような想像できない強烈なパワーを発揮してくれる体の仕組みを利用するための動きが、しならせてそのしなり戻りを使ってクラブを振ることです。
下半身の動きで上半身をしならせるところまでが、スイングでやるべき仕事です。
後は脊髄反射に任せることで、最高にパワー発揮できる体の使い方となります。
しならせたら仕事は終わりにしましょう。
弓だって、弓をしならせて矢を射ち放ちたい方向へ精密に向けたら、後はポンと手を離すだけです。
ゴルフだって、トップに向かう切り返しからボールヒット直前まで上半身をしならせたら、ポンとしなり戻ることに任せるだけの動きが最高のショットを量産してくれます。
◆筋肉の3種類の動かし方
筋肉の動かし方の分類は「伸張性収縮」の他に、筋肉の長さを短くしながら収縮させようとする「短縮性収縮」、筋肉の長さが変わらない「等尺性収縮」の合計で3つあります。
腕の筋肉の使い方で見ると、腕を伸ばす場合は腕の後ろ側の上腕三頭筋が働きますが、上腕三頭筋に注目すると腕が押されて曲げさせられるときは「伸張性収縮」となります。
腕で物を押して動かないときは「等尺性収縮」で、押し動かしているときは「短縮性収縮」です。
そして、力の大きさと発揮するスピードは大きさ順で「伸張性収縮」>「等尺性収縮」>「短縮性収縮」です。
また、大きな力をできるだけ短い時間に発揮するほどボールは爆発的に飛ぶわけですから、ゴルフで使うなら「伸張性収縮」です。
ゴルフの動きでの「短縮性収縮」の状態とは、例えばトップから自ら出す力で振りにいくようなときの力の出し方になります。
まさにがんばって力を自ら出してクラブを振ろうとすると、筋肉は縮みながら収縮する「短縮性収縮」となります。
逆に「伸張性収縮」は「受ける力」として表現することもできます。
まさに、押されて押し負けている状態です。
「受ける力」で力を発揮しているときが、最も楽に大きなパワーを発揮することができます。
これは気持ちと裏腹ですが、体の仕組みとしてしっかり頭に入れておくことでパワーを発揮するための体の使い方ができるようになります。
◆「伸張短縮サイクル」はかなりすごい
先ほど少しお伝えしたように、「伸張性収縮」をさらに加速させる体の仕組みがあります。
それは、「伸張短縮サイクル」です。
ヒトの筋肉には長さに反応するセンサーがあり、筋肉が伸ばされるとそのセンサーが反応します。
そして、伸ばされたことに反応した信号は脊髄に到達して、脊髄からは伸ばされた筋肉を縮める信号が発信されます。
この信号は「伸張反射」と呼ばれます。
筋肉が伸ばされる速さが速いほど「伸張反射」も大きな信号になり、対応する筋肉をより強く収縮させようとします。
通常、意識的に筋肉を縮めようとすると、大脳から筋肉を収縮させる信号が発せられます。
しかし、脳は能力の限界まで力を出させようとしないで、リミッターをかけています。
脳からの司令では、通常の状態ではだいたい能力の半分ぐらいしか出せません。
火事場のばか力などと言われるように、脳が興奮状態になって初めて能力の限界に到達することができます。
そのため、脳からの司令、要するに意識的に自ら力を出そうとしていては能力の半分ぐらいしか力を出せません。
ところが「伸張反射」にはリミッターがかかりません。
単純に大きく素早く伸ばされた筋肉には、より強く収縮するための信号が脊髄から発せらます。
伸ばされた筋肉に対してこの「伸張反射」によって、収縮させられることで筋肉は伸張性収縮を強く発生させられて縮みます。
この伸びて縮む一連の動きが「伸張短縮サイクル」です。
筋肉が伸ばされて長さが長くなっている最中に、「伸張反射」で縮もうとしながらもまだ伸ばされている瞬間が最も大きなパワーを発揮できるタイミングです。
この筋肉の動きでクラブを急激に振ってシャフトを一気にしならせて、そのしなり戻った瞬間にボールヒットさせます。
また、「伸張短縮サイクル」でヘッドまで急激に加速されますが、その加速度は一気に小さくなります。
そのため、まさにリリースされた瞬間にボールヒットさせることで、大きな加速度を得たヘッドはボールに対して当たり負けが少なくなります。
そうすると、ヘッドスピードに対するボール初速であるミート率は高く、フェースの向きも変わりにくいので遠くまで思ったようなボールを飛ばしやすくなります。
まだ加速中にボールヒットしてはヘッドスピードとしては最大にまで達していませんが、リリース直後の大きな加速度に比べてリリース後は加速度は急激に低下します。
そのため、リリース直後ならヘッドスピードとしてはさほど損しないで、大きな加速度を使える感じとなります。
◆バックスイング
ところで、しならせるための要は動く順番です。
ヘッドから遠いところから動くほど、体全体をしならせやすくなります。
手から動いては体はしなりません。
そこで、下半身から動く正しいバックスイングをやってみましょう。
バックスイング開始で、まずは脚から動き始めます。
右足母指球の少し後ろで地面を踏みながら、右股関節は上半身の前傾角度を維持する程度には入れたまま右膝を伸ばす動きで右のお尻を右後ろポケット方向へ押し込みます。
同時に左サイドは、斜め右下へ落ちるイメージです。
左脚は左腰が右斜め下である右足つま先方向へ向かって落ちることに連動して、鉄の重い鎖のように左腰の動きを加速するように左腰に引っ張られるまま伸びてきます。
左サイドが落ちると人は落ちてしまうことを防ごうとして、右脚はむしろよりしっかり地面を踏めるようになります。
そうすれば、骨盤はセットアップでの前傾角度を維持しながら、楽に右にターンしてきます。
先行する下半身の動きによって骨盤が右にターンすることで、ヘッドが一番最後に動くようにします。
また、手元は体のターンでインに入りながらヘッドが振り出し後方へ真っ直ぐに低く動くようにすることで、手首が親指側へ折れるコックがちょうど良く入ります。
右股関節はセットアップでの前傾角度を保つ程度に入ったまま、右膝が伸びきってしっかり下半身を使いきります。
下半身がしっかり動けば、ヘッドが一番最後に動く感じが出せます。
下半身を使い切ってからは、それまでのヘッドの勢いに引っ張られるようにします。
それまでの手首が親指側に曲がるコックを入れることに加えて、右肘が曲げさせられながらシャフトに押されることに耐えることで最高のトップに向かいます。
◆トップに向かう切り返しからボールヒット
トップに向かう切り返しでは下半身をヘッドに対して先行して動かし、両脚で地面を踏もうとします。
両脚で地面を捉えたら、後はひたすらボールヒットに向かって左脚の縦蹴りで腰を鋭くターンさせます。
左足母指球の少し後ろで地面を踏みながら左脚を伸ばす動きを使って、左のお尻を左後ろポケット方向へ押し込むようにすれば良いです。
そして、この左脚を縦に蹴る動きに連動して脚の横倒れを防止してしっかり脚を縦に使えるために、両腿をキュッと引き締めます。
これらの一連の動きを行えば、腰は回そうとしなくても骨盤の前傾角度を維持して、骨盤から首の付け根までの体幹は斜めに左回転してくれます。
体幹の左回転に対してヘッドは置いていかれます。
そうすると、上半身は強烈にしなります。
そして、下半身の動きが鈍る腰が左に45度程度回転した辺りからは、上半身が勝手にリリースされてきてボールを強く打ち抜きます。
リリースの最中は、上半身のリリースでクラブが左に振られたその反作用で右脚は強烈に踏まされます。
右脚はこの反作用に耐えるために、反作用が発生するまでは静かに構えていることが能力限界までのパワーを発揮するための要となります。
◆しなり戻る仕組み
クラブが自動的にリリースされるきっかけは、上半身のしなり戻りの力が下半身の力を超えることです。
バックスイングからダウンスイング序盤までは、ゆっくりじっくり下半身の動きで上半身をしならせてきます。
手元が胸の高さ辺りまで落ちてきてクラブがインパクトの面に乗るまでは、ゆっくりしならせてできるだけ大きなしなりのエネルギーを上半身に蓄積させます。
ここでゆっくりしならせる理由は、筋肉が伸ばされると発生する脊髄反射である伸張反射を抑えることで、しなり戻りを抑えて大きくしなりのエネルギーを溜めたいからです。
伸張反射は筋肉が急激に大きく伸ばされるほど強く発生します。
そのため、ゆっくりしならせることで伸張反射でのリリースを抑えながらしならせます。
そして、手元が胸の下辺りからは、両腿をキュッと締めながら左脚を縦に蹴って左のお尻を左後ろポケット方向へ急激に押し込みます。
そうすると、腰は鋭く左にターンして上半身は急速にしならせられます。
そのとき上半身には大きな「伸張反射」が発生して、一気にしなり戻りの力が大きくなります。
さらに、腰が45度程度左に回転してくると、下半身が左ターンする力は落ちてきます。
そうすると、上半身のしなり戻りの力はとうとう下半身の左回転する力を超えます。
その瞬間、腰から上で急激にしなり戻りが自動的に発生します。
そして、上半身でのしなり戻りが発生し始めると、その反作用で下半身は上半身の左回転する方向とは反対方向である右回転させられる力を受け、さらに腰の回転は遅くなります。
腰は回転が一旦止まるようにも見えます。
それによって上半身のリリースはさらに加速され、一気にリリースに向かいます。
このように自動的に発生するしなり戻りの力だけを使うようにしましょう。
体幹の回転速度が速いほど、その自動的にリリースされる力が自ら振ろうとする力よりも強くなります。
どうでしたか、私たちの誰にでも備わっている体のすばらしいしくみを利用すれば、想像を絶するパワーを発揮できることがわかったことと思います。
まずは、しならせることが大切なことを頭に叩き込んで、しならせたら大脳であれこれする仕事は終わりにしましょう。
そうすれば、上半身はリラックスして下半身は目一杯使って、気持ち良く振ったらとんでもなくボールが飛ぶことを経験できます。